HOME株本れびゅ2007年タートル流投資の魔術
伝説のトレーダー集団 タートル流投資の魔術
カーティス・フェイス 飯尾博信+常盤洋二 楡井浩一
4198624267

感想:投資心理&システムトレード入門

「タートルズ」の一人、カーティス・フェイスが書いた本。

投資心理やシステムトレードの罠について書かれていて面白かった。投資心理については、似たような話題の本は何冊も読んで食傷気味だったが、この本は、話がまとまっており、また具体的で分かりやすい。システムトレードについてもバックテストの注意点や堅牢なシステムのために必要なことなどが述べられており、システムトレード入門としてもオススメな一冊かもしれない。

一方、基本的には、トレードで重要な基礎について書かれた本、どっちかというと心構え本で、実際のトレードでそのまま役立つわけではない。タートルズの手法についても、今現在、そのまま使ってうまくいくとは思えない。以下、その他説明。

タートルズって?

タートルズ(Turtle Traders)とは、400ドルを2臆ドルにした伝説の商品トレーダー、リチャード・デニス(Richard J. Dennis)と彼のパートナー、ウィリアム・エッグハード(William Eckhardt)が養成したトレーダーたちのこと。

Wikipedia リチャード・デニス

パートナーであるエックハートと『優秀なトレーダーを育成できるか』という議論、賭けをする。そして1983年と1984年、2度に亘り『ウォール・ストリート・ジャーナル』に広告を出し、教えられた投資手法は絶対に口外禁止という条件の元、トレーダーを募集、育成した。 最終的には「タートルズ Turtle Traders」は23人育成され、成功をおさめているため『優秀なトレーダーを育成できる』という結論にいたる。 タートルズの名前の由来はデニスが東南アジアに旅行に行ったときに見た亀の養殖から、トレーダーを養殖する事とかけた事から。

1984年に第1期、1985年に第2期のタートルズが養成されたらしい。タートルズの手法は、トレンド・フォローという順張り系のシステムだが、手法は秘密で、タートルズには10年間の守秘義務が課せられていた。

第1期のタートルズ、ラッセル・サンズ(Russell Sands)という人が秘密を破り、本を書いたり、セミナーで金儲けをしだしたため破門されたらしい。ラッセル・サンズの書いた本は「タートルズの秘密」という邦題で和訳もされており、20,790円とけっこうなお値段である。

一方、今回読んだ、カーティス・フェイスの「タートル流投資の魔術」は秘密期間の後に出されたものらしい。お値段も1,785円とお手ごろ。

なお、書籍、マーケットの魔術師にリチャード・デニスとエッグハートのインタビューが乗っており(リチャードデニスは元祖本、エッグハートは新の方)、そちらも面白い。

タートルズの手法

タートルズの手法は、門外不出だったわりには、別段すごいものでもなく、普通の簡単なトレンドフォローのシステムだったらしい。本によると、ドンチャンシステム(本ではドンチアンと表記)というものを使っていたらしい。

ドンチャンシステムというのはリチャード・ドンチャン(Richard Donchian)という人が作ったチャネルブレイクアウトのシステム。

参考 ドンチャン・ルール

2つの日数パラメータのドンチャンシステムを使ったらしい。

・システム1:20日ブレイクアウトの短期システム
・システム2:55日ブレイクアウトの長期システム

例えばシステム1であれば、過去20日の高値を1ティック更新したら、買いエントリーする。安値の場合は売りでエントリー(安値の場合は売エントリー)する。トレンドが継続する間はポジションをとりつづけ、逆方向に2N(ATRという移動平均2つ分)動いたら仕手舞い。2Nは口座額の2%にあたり、ロスカットルールにもなる。

タートルズの手法のポイントは、市場に大きなトレンドが出るときに、それを逃さないという一点が最重要。そのためにシステム1、および2でエントリーする。ヨコヨコ相場では、長期間トレンドが出ずに、ロスカットばかりということもあるが、そこはぐっと我慢。

認知のゆがみ

本では、トレードに影響を与える認知のゆがみについて、以下のものをあげている。もしかして現代風の用語の使い方と違うのがあるかもしれないが、コンパクトにまとまってていい気がした。

損失回避

利益を得るより損失を避けることを優先しようとする性質。「損を切って、利を伸ばせ」というのができない原因。行動ファイナンスで言うところのプロスペクト理論。大きなトレンドをとるには薄利食いを耐えなければならないし、大損失を避けるには小さく損を切らなければならない。

埋没費用効果

それまでにかけた費用に意思決定を左右されること。損切りが出来ない一因とも考えられる。評価損は確定しなくても既に損。

処理効果

利益は早く確定しようとし、損失はできるだけ長くのばそうとすること。上の2つと同じことか?

結果偏向

プロセスよりも、結果を重視しすぎる傾向。もちろん結果が大事だが、結果を出すのはプロセスなので、プロセスを重視すべき。偶然で悪い結果が続いても、プロセスが正しいと信じるなら、オタオタしない。

直近偏向

人は最近の結果に影響を受けやすい。直近1、2回の成功、失敗でなく、長い目で見て判断するのが大事。

係留(アンカリング)

簡単に手に入る情報に頼りすぎる傾向、またそれに縛られること。例えば、株価が高いとか安いとかは、ちょっと前の株価を元に判断される。また、みんながやってるからという理由で同じ意見を持つ「バンドワゴン効果」というのもある。

少数の法則

小さなあるいは偏った例をもとに、全体の判断を行うこと。統計的に判断するなら、母集団を代表する十分な数のサンプルを用いるべき。

バックテストの落とし穴

バックテストでパフォーマンスがいいのに実際の取引ではボロボロというシステムがある。本では、バックテストの罠として、以下のものをあげている。

トレーダー効果

パフォーマンスの優秀な手法でも、広まることで、機能しなくなる。同じ手法をみんながやってしまうと、相場の動きは、まったく変わってしまう。また、画一的な方法でトレードは、食い物にされやすい。シグナルの先回りをされるし、ロスカットも先回りされる。

ランダム効果

短期間の勝ったり負けたりは、思った以上にランダムの影響が大きい。

最適化のパラドックス

最適化とは、システムのパラメータ(例えば移動平気の日数など)を調整してパフォーマンスを上げること。最適化自体はシステムのパフォーマンスを上げるのに必要ことであるが、最適化のしすぎ、間違った最適化を行うと、実際に取引した場合のパフォーマンスを低下させてしまう。

(例えば移動平均の日数であれば)10日、15日などピンポイントのパラメータを比較して、いいものを選択するのは危険。10日、11日、12日〜と幅広くためしてみて、パフォーマンスの差をグラフなどで比べてみるといいらしい。極端に高い、低い日数を選択するのは危険で、ちょっとずれても大丈夫なところでパフォーマンスがいいのを選ぶのが堅牢なシステムになるらしい。

オーバーフィッティング(カーブフィッティング)

見せかけのパフォーマンスのための誤った最適化を行うこと。インチキシステムを売っている業者のシステムは、たいていオーバーフィッティングしてて、実際は役にたたない。

例えば数の少ない大きなドローダウンを避けるために特殊な処理をほどこす。例えば、ぎりぎりでロスカットするようにしたり。例えば、そのドローダウンに巻き込まれないように、検証期間をずらしたり。

タートルズの教え

本に載っていたタートルズの教え。

全くその通りだと思った。でも。。。

タートルズ門下生の中で、いい成績を出した人とそうでない人の差は何かについて、著者(カーティス)は、システムに従うことができるかであると言う。多くの人がシステムに従うことができないのは、上のもろもろも「認知のゆがみ」によることが多いと。

その通りだと思うが、インチキ宗教、インチキシステム、インチキセミナーで商売している人も同じことを言う。彼らはエッジのないインチキシステムを、いかにもスゴイもののように売る人たちだ。

まず、システムにエッジがあるかどうか自分で判断することが大事。本では、そのために、バックテストをして統計的に検証することを唯一の方法としている(その他に何の方法があるのか?とかどっか書いてたような)。

トレンドの発生する理由は?

本では、支持線と抵抗線について解説していて、この部分の解説はとても面白かった。ブレイクアウト手法が有効な理由もそこにあると。しかし、「大きなトレンド」が生じる背景説明が書いてないと思った。ファンダなのかバブル心理なのか。この部分が一番ザンネン。

トレンドフォローってどうなのかな

本では、このタートルズのシステムは秘密でもなんでもなく、首尾一貫して行えば誰でもうまくいくって感じで書いてた。これもややうさんくさい。それならタートルズって、優秀な人材でなくても、素直なバイトでいいじゃんて話になる。また、トレーダー効果だけで、システムが機能しなくなるのに、十分だと思う。リチャード・デニスも大きな損害を出してファンドを閉じたらしいし。あと商品やら為替やらは素直なトレンドが出るが、株式は動きがカオスでうまくないという説もある。

2007/10/24