株式投資には、様々な手法、理論がある。明らかなインチキ、オカルト、ウケ狙いの手法のほかに、科学的な検証を行ったとうたう「××理論」といった理論もたくさんある。××理論には、機能するものもあれば、しないものある。機能しないのは、「発表当時は機能したが、広まったことで機能しなくなった」というのものもあるが、単に「理論自体に誤りがある」ということもある。
実践的スペキュレーションという本では、統計の落とし穴になりそうなことが書かれており、間違った理論に騙されないための知識として役に立つ。この本では、ウソ理論(××理論)は通常、次の欠陥のうちの1つか2つを持つと言っている。
・ランダムの可能性を説明することができない
・他の2つの変数の原因となる第3の変数の省略
・母集団そのものの変化または移動性を考えていない
・合算のウソ話
ほとんどのテクニカル指標は統計的に有意でない。パラメータを変えることで、有意になるように調整することは可能だが、その調整には、あまり意味がないように見える。例えば、RSIの14日、16日を使うとうまくいかなかったトレードで、15日だとうまくいくということが分かったといって、どこに15日を採用する根拠があるのか?「理論を見つけるための第一歩とする」、「根本となる理論があって、最後にパラメータを微調整する」のは悪くないと思う。しかし、「ウソ理論を正当化するために、パラメータをいじくる」のは、インチキ科学者への道だと思う。
自分的には、統計的に証明されていなくても、因果関係が納得できれば、トレードすることはある(というか統計的に証明されるのを待っていては機を逃すし、そもそも市場は変わりつづける)。逆に、因果関係が納得できなければ、統計的に有意であってもトレードはしない。
なお、いわゆる暴落逆張り戦術は、因果関係は納得できるが、ドローダウンの可能性を克服する勇気がないので、今はやっていない。
相関関係と因果関係というものがある。「統計的に有意」というのは単に相関関係を示すだけで因果関係は示さない。時系列の調査や人の解釈によって、因果関係は見つけ出される。因果関係は「人の解釈」が入るため、間違いもよく起こる。
相関関係 A⇔B AとBの間に相関がある
因果関係 A→B Aを原因としてBが起こる
例えば、「体重とダイエット食品」に関する調査を行った結果、体重とダイエット食品の間に正の相関が見つかったとする。
体重⇔ダイエット食品
ここから
「ダイエット食品を多く取る人の方が体重が重い」(ダイエット食品→体重) だから「ダイエット食品は効果がない」
と考えるのは、因果関係の解釈の誤りである。単に
「体重が重い人がダイエット食品を多く取る」(体重→ダイエット食品)
というだけの話だろう。
因果関係を証明するには、時系列の調査や実験を行い、ダイエット食品をとりつづけている人の体重が減少する(しない)ことが確認できなければならない。
因果関係の誤りで多いのが、重要な変数を見逃すことである。
ある調査で「コウノトリの数と出産数の間に正の相関」があったことから、「コウノトリが多いほど出産数が多い」という夢のある因果関係を考えたとしよう。しかし、この解釈はおそらく誤りである。他の調査では「人口⇔煙突の数⇔コウノトリ」「人口⇔出産数」ということが分かったとする。
単に「人口が多いから出産数が多い」だけであるのに、最初の調査では、人口や煙突の数という変数を見逃していたわけである。変数を見逃すことで、出産数とコウノトリの間に「見せかけの相関」がうまれる。出産数とコウノトリの数はたしかに相関はがあり統計的に有意ではあるが、そこに因果関係はない。
正しい因果関係
人口→出産数
人口→建物→コウノトリ
見せかけの相関
人口⇔コウノトリ
単に「相関がある」というだけではトレードでは役に立たない(もちろん、なんでだろう?と考えるヒントにはなる)。因果関係があってこそ、未来の予測に利用できる。
同業種のA社とB社の株価に相関関係があると言っても、A社の株価が上がったからB社の株が上がるとは限らない。しかし、A社が「セクターの業績好調」を反映して買われたのであれば、B社の株価も上がる可能性があるだろう。ただし、A社B社の株価の「連動で売買している人が存在する」と考えるのであれば、彼らの先回りするという理由で買うというのも悪くはないかもしれない。
調査対象の母集団の変化を考慮しないと、誤った結論をまねく場合がある。
過去の「低PER銘柄はパフォーマンスがよい」という研究の多くは、対象データに「生き残りのバイアス」がある。低PER銘柄の中で、倒産した銘柄が対象データからはずされているのだ。
株価が2倍になった株の過去のチャートを見ると「最高値のブレイクで買うのがよい」と思えることがある。株価2倍銘柄という母集団で、過去最高値をブレイクしたか、しないか、といえば、100%ブレイクしているはずである。しかし「最高値をブレイクした銘柄」の中には株価が2倍にならないものの方が圧倒的に多いだろう。
クラシックコンサートで、立ち上がるとよく見えるからといって、みんなが立つとみんなよく見える。はずはない。
個別株の低PERがその後の高いリターンと関連する、としても、市場の低PERが、その後の市場のリターンと関連するとは限らない。
なお、いくつかの例は「実践的スペキュレーション」の他に、以下の本を参考にしました。
初稿 2006/9/9